今から、13年程前 。。
縦目の主治医 中森さんから、私のメールマガジンに寄稿して戴いた記事の再掲載

今回は、恐竜と散歩 を

今日はお客様の1971年式Ford MUSTANG Mach 1 を引き取って工場に陸送する所です。
V8で7.8リッターフルサイズと云う単室容積1000cc近いエンジンの音は、乗用車と云うよりはダンプカーのそれに近く(今回はそれをマシにするのに預かるのですが)身震いして信号待ちする姿を見る人は、殆んど「馬鹿みたい!」と云わんばかりのいぶかしげな視線で睨みます。

この車が007/ゴールドフィンガーでボンドカーをやった事も在る事を知る人はもう少ないでしょう。
軽いけれど切れの少ないハンドル、2〜3キロ走るのにハイオクを1リッターガブ飲みする燃費の悪さ、気を抜いて踏んだら何時でもホイルスピンするアクセル

全く京都市内に似つかわしく無い車です。
まるで現代に生き残ってしまったティラノザウルスの様です。

でも私はとてもカッコいいと思います。
この当時のこの車やGMのファイヤーバードのスタイルは、何とダイナミックなんでしょう。

ボディラインが意志を持つかの様に生きています。
線を生かすと云う事はある人のインスピレーションのイメージ(稀には集団の)をそのまま尊重し、形に出来る周りの環境が無いと無理で、ピカソのデッサンの髪の毛が生きている様に正に一発勝負です。

回りの部所からの注文でいじくる内に線は死んでしまいます。
最近の国産メーカーの車のデザインに魅力が無いのは恐らくその為でしょう。

この車を子犬に首輪を付けて散歩する様に市内で乗るのは楽しい物では在りません。(大分手なずけましたが)
でも、回りの国産スポーツカーなど屁で吹き飛ばすほどの存在感に満ちています。

この車は砂漠の真ん中を真っ直ぐ走るフリーウェイを、ステレオで「大いなる西部」や「荒野の七人」をガンガン鳴らしながら床までアクセルを踏んだらどんなに生き生き走るだろう!と想います。
しかし彼は生き長らえてしまった恐竜なのです。

動物園の猛獣の様に、荒野を夢見ながらオーナーに大切にされて余生を送るでしょう。
美しいムスタングに幸あれ! 

中森 広騎